~二十四節気とともに綴る京都の食卓~

うつりかわる季節を楽しみ、旬を味わう、京都人の美意識と知恵。四季のある日本で、京都の人たちはひときわ季節を大切にしてきました。古くから季節の指標として用いられてきた「二十四節気」を軸として、名店の料理とともに、京都の暮らしにとけこむ食の風景を綴ります。

2022/8/7~8/22[

京都人の
あたりまえ。

なんば、菊菜、かしわ、ぐじといった特有の呼び方。
魚そうめん、ささげといった他府県ではあまり見かけない食材や料理。
おしょらいさんをお迎えし、遠方からの帰省や来客もある時期、京都人の慣れ親しんだ味を食卓へ。

2022/08/05

お迎え団子に、追い出しあらめ。

京都ではお盆のお供えといえば、13日のお迎え団子に始まり、おはぎ、そうめん、白蒸しおこわなど、日ごと、家庭ごとの決まりがあり、16日は“追い出しあらめ”といって、あらめの黒い戻し汁を門口にまくと、おしょらいさん(ご先祖の精霊)がこの世に未練を残さずに帰れると伝えられています。お盆のあいだは家族の食事も精進にするものですが、思い出の料理、家族が好きな料理を囲むのも供養になるのではないでしょうか。

季めくり季の味■地階 京の銘店そう菜売場

〈〈天ぷら八坂圓堂〉

"なんば"や"菊菜"を
鮮やかな色が映える薄衣で。

京都では「なんば」と呼ばれる、とうもろこし。北海道では「とうきび」と呼ばれるほか、地域によって「こうらい」「はちぼく」「まるきび」などいろいろ。日本方言大辞典によると、250種以上もの呼び名があるらしく、これほど多くの名をもつ食材は珍しいかもしれません。圓堂名物として知られる"なんばの天ぷら"は、1993年に現当主が考案したもの。蒸してあるので甘みが濃く、粒をつぶさないよう太鼓橋のような弧形に切ってあるので、一粒一粒がぷりっと弾ける食感です。塩をつけると、素材本来の味わいが引き立ちます。鮮やかな緑のかき揚げは、京都では「菊菜」と呼ばれる春菊。ほのかな苦みと豊かな芳香があり、揚げるとパリパリと軽く、麵類のトッピングにも人気です。いずれも食材の色が映える薄衣でさっと揚げています。

〈天ぷら八坂圓堂〉

天ぷら各種(1個)
とうもろこし 税込194円
春菊のかきあげ 税込280円
大海老 税込313円

〈京都𠮷兆〉
〈京都𠮷兆〉
 
 
 

"かしわ"をオリーブオイルと
土佐酢でさっぱりと。

京都では「かしわ」と呼ばれる、鶏肉。呼び名の由来には諸説ありますが、一説では仏教思想の影響で肉食が忌避されたとき、隠語として猪肉=ぼたん、馬肉=さくら、鹿肉=もみじとともに、鶏肉=かしわと呼ぶようになり、もとは広い地域で使われていた言葉だったのが、近畿圏を中心に方言として残ったとされています。写真の料理は、京都𠮷兆の「土佐酢」と「エキストラヴァージン オリーブオイル」を使った、かしわのさっぱり焼き。土佐酢は鰹節、昆布、丸大豆醤油、本みりん、醸造酢を使った、豊かな風味と柔らかい酸味が特徴。オリーブオイルは総料理長の徳岡邦夫がイタリアへ赴いて開発したもので、種を抜き取ってから抽出する特別製法により、えぐみや苦味がなく、繊細な味わいです。フライパンにオリーブオイルを敷き、うす塩をした鶏肉の皮面に強火で焼き目をつけてから返し、土佐酢を入れて、蓋をして煮詰め、皮面にも煮詰まった土佐酢をかけながら照りをつけます。湯むきしたトマト、湯がいて削り鰹、塩、いりごまと和えたささげとともに器に盛れば、できあがり。ささげはマメ科のつる性野菜で、京都ではお盆のお供えにもよく用いられます。

〈京都𠮷兆〉

土佐酢(195ml)税込1,080円
エキストラヴァージン オリーブオイル(92g)税込1,620円
●オンラインストアでも販売しています。詳しくはこちら

〈下鴨茶寮〉

京都の知恵が生んだ
夏の風物詩、"魚そうめん"。

京都では夏になると当たり前のように見かける「魚そうめん」。古くから京都は海が遠いため、貴重な魚をおいしく大切に食べる工夫を重ねてきましたが、魚のすり身を使った練り物もそのひとつ。かまぼこを細長くそうめん状にした魚そうめんは京都が発祥とされ、他の地域ではあまり知られていません。つるつると喉ごしがよく、たんぱく質を多く含んで消化がよく、食欲が落ちがちな残暑の時期にも嬉しい食材です。こちらは2色の魚そうめんに、だしのジュレ、トマト、おくら、パプリカなどの野菜、錦糸玉子と温泉玉子を合わせた一品。様々な彩りと食感が調和し、トマトの酸味、温泉玉子のとろりとしたコクなど、"味変"を楽しみながら、さっぱりと味わえます。

〈下鴨茶寮〉

夏野菜と魚そうめん(1人前)税込702円

〈三央〉
〈三央〉
 
 
 

■地階 鮮魚・塩干物売場
身もアラも味わい尽くせる、
一汐物の"ぐじ"。

京都では「ぐじ」と呼ばれる、甘鯛。その昔、日本海でとれた甘鯛を京都に運ぶ際、腐敗を防ぐために一塩すると、着く頃にはちょうどいい味加減になったことから"一汐物(ひとしおもの)"と呼んで好まれ、京都の食文化に欠かせない存在となりました。流通が発達した現代では各地の魚が新鮮なまま届きますが、みずみずしい身に塩をふることで、ほどよく水気が抜けて身が締まり、甘みが増して、はんなりとした味わいに。三央は京都の台所 錦市場で100年以上の歴史をもち、選りすぐりの干物をはじめ、京みそ漬け、たらこ、ちりめん山椒などをそろえる名店。鮮度と脂のりを見極め、絶妙な塩加減で仕上げた一汐物のぐじは、味わいも見映えもひときわです。焼いた身がおいしいのはもちろんのこと、アラを使った潮汁もおすすめ。作り方は昆布だしに日本酒、アラ(熱湯をかけて洗った頭、尾)を入れ、煮立てない程度の火加減でアクを取りつつ約15分。味見しながら塩をひとつまみ入れ、濾したらできあがり。好みで醤油やうまみ調味料、柚子皮を入れても美味です。手軽に味わうのなら、焼き魚として食べ終えた後、残った中骨や頭をお椀に入れて熱湯を注ぎ、好みの調味料を加えるだけでも、うまみたっぷりの潮汁に。京都人らしい"しまつのこころ"で、余すことなく味わい尽くしましょう。

〈三央〉

甘鯛 開き(一汐物、1枚)税込2,592円

  • ※本記事の内容はホームページ掲載時の情報です。
  • ※季節のメニューなど、商品により販売期間が限られていますので、ご了承ください。
  • ※やむを得ない事情により、食材の一部を変更する場合、予告なく価格変更、販売終了する場合がございます。
  • ※写真はいずれも盛り付け例です。皿などの容器は商品に含まれません。

2022年

[2022/2/4~2/18]

都大路に春一番が吹き、梅の花がほころび始めます。厳しい余寒が続く中にも、新しい季節の兆しはそこかしこに。

[2022/2/19~3/4]

雪が雨に変わる頃の意で雨水。北山の雪解け水が鴨川をうるおし、三寒四温を繰り返しながら、少しずつ春めいてきます。

けいちつ

[2022/3/5~3/20]

春の陽光に誘われ、冬ごもりしていた虫たちが動きだす。鴨川沿いの柳は鮮やかに芽吹き、早咲きの桜が花を開きはじめます。

しゅんぶん

[2022/3/21~4/4]

沈丁花の香りが漂い、椿や木蓮、雪柳、桜…と次々に咲き、つばめが飛来しはじめ、いよいよ本格的な春の到来です。

せいめい

[2022/4/5~4/19]

清らかな陽光にみちて、生きとし生けるものすべてがいきいきと生命を謳歌する季節。京都の街は桜色に染まります。

こく

[2022/4/20~5/4]

百穀春雨と呼ばれる恵みの雨がしっとりと大地に降りそそぐ頃。藤や石楠花、杜若が見頃を迎え、街路樹は瑞々しい若緑色へ。

りっ

[2022/5/5~5/20]

爽やかな青空が広がり、青もみじが目に眩しく、風薫る五月。納涼床、川床が始まり、夏日となる日も次第に多くなります。

しょうまん

[2022/5/21~6/5]

草木や枝葉が生い茂り、梅の実がふくらむ頃。衣替えや建具替えをすると、町並みも夏らしい装いに。

ぼうしゅ

[2022/6/6~6/20]

梅雨入りを迎え、雨に濡れた色とりどりの紫陽花が美しい頃。各地の寺社で田植祭や竹伐り会式など豊作を願う神事が行われます。

[2022/6/21~7/6]

都大路をしとしとと雨が濡らす頃。神社では夏越祓の神事が行われ、鉾町にお囃子の音色が響きだし、京都の夏はいよいよ本番へ。

[2022/7/7~7/22]

コンチキチンの音色が響き、夏の暑さはいよいよ盛り。3年ぶりの山鉾巡行が待ち遠しく例年にも増して町が活気づきます。

[2022/7/23~8/6]

朝早くから蝉が大合唱し、空には大きな入道雲が立ちのぼり、京の油照りと言われる盆地特有の蒸し暑さが続きます。

[2022/8/7~8/22]

じっとりとした残暑が続く毎日。万灯会や灯篭流しが行われ、五山の送り火を終えると、京都の街はようやく秋の気配に。

[2022/8/23~9/7]

赤とんぼの姿、鈴虫の声。山々の緑は濃くなり、夏の入道雲と秋の鰯雲が混じり合う、行き合いの空が見られる頃です。

[2022/9/8~9/22]

朝晩は日ごとに涼しさが増し、草花が白い朝露をむすぶ頃。萩の花がしだれ咲き、夜空には美しい月が輝きます。

[2022/9/23~10/7]

暑さ寒さも彼岸まで。肌に心地いい秋風が金木犀の甘い香りを漂わせ、色鮮やかな彼岸花を揺らします。

[2022/10/8~10/22]

すすきの穂が黄金色に輝き、菊の花は色とりどりに。秋の日暮れは釣瓶落とし、そろそろ燗酒が恋しくなります。

[2022/10/23~11/6]

ひんやりと風が冷たく、朝晩は吐く息が白くなり始める頃。山野は晩秋の色を帯び、菊の花は見頃を迎えます。

[2022/11/7~11/21]

街のあちらこちらでお火焚きの煙が立ち昇る頃。山々や街路樹が次々と色づき、京都に美しい緋色が広がります。

[2022/11/22~12/6]

山茶花が花開き、鴨川にはユリカモメが飛来。しぐれるごとに寒さが増し、いよいよ本格的な冬の到来です。

[2022/12/7~12/21]

南座のまねき看板が上がると、京都の街は師走のにぎわいに。寺社では大根焚きや煤払い、終い縁日が行われます。

[2022/12/22~2023/1/5]

陰が極まり陽となる冬至。「ん」のつくもんで気を転じ、をけら詣りに除夜の鐘、歳神様をお迎えします。

[2023/1/6~1/19]

風花が静かに散らつき、寒椿が冬景色に彩りを添える頃。初釜式や十日ゑびすに向かう人波でまちが華やぎます。

[2023/1/20~2/3]

雪中四友と呼ばれる花々が咲き、寒さの底、来る春の兆し。初弘法、初天神、初不動、そして節分行事で寺社が賑わいます。

2021年

[2021/4/4~4/19]

清浄明潔を略して清明。清らかな陽光を受けて草木が芽生え、万物がいきいきと生命を謳歌し、都大路は桜色に染まります。

[2021/4/20~5/4]

穀物の種を蒔き、春雨に生育の願いを託す穀雨。八十八夜、茶摘みの季節が始まり、京都の街は桜色から瑞々しい緑色に。

[2021/5/5~5/20]

木々の緑がまぶしく、暦の上では夏。納涼床、川床が始まり、そして行列は中止ですが、五月といえば平安の時代から続く葵祭です。

[2021/5/21~6/4]

日差しが強くなり、木々の緑は深く。京都には〝家の作りようは夏を旨とすべし〟と涼の知恵が息づき、町家では6月1日に建具替えをします。

[2021/6/5~6/20]

芒(のぎ)はイネ科植物の突起のこと。麦を刈り取り、田植えをする時期です。京都のそこかしこで紫陽花が美しく、夕闇を舞う蛍が夏の風情を運びます。

[2021/6/21~7/6]

東山が雨にけむり、梅雨まっただ中。630日、京都各地の神社では夏越祓(なごしのはらえ)を行い、残る半年の無病息災を祈願します。

[2021/7/7~7/21]

疫病や災厄の退散を祈願して平安時代に始まったとされる祇園祭。おごそかに神事が行われ、京都の厳しい暑さは盛りを迎えます。

[2021/7/22~8/6]

三方を山に囲まれ、夏の暑さが厳しい京都盆地。鴨川の飛び石に子供たちの歓声が響き、堤防に草いきれが立ち込めます。

[2021/8/7~8/22]

盆地特有の残暑が続く日々。おしょらいさんをお迎えし、五山の送り火が終わると、ようやく秋の気配が漂いはじめます。

[2021/8/23~9/6]

ようやく暑さが少し和らぎ、虫の音も聞こえはじめる頃。8月下旬の京都では町内の路地で地蔵盆が繰り広げられます。

[2021/9/7~9/22]

草花に朝露が白く光り、虫の声が夕暮れをつつむ頃。京都の各所で秋の名月を愛でる風雅な祭事が行われます。

[2021/9/23~10/7]

ひんやりと頬をなでる風、どこからか漂ってくる金木犀の香り。秋分を境に日が短くなり、秋の夜長の始まりです。

[2021/10/8~10/22]

朝夕は肌寒く草木に露が降りる頃。天高く澄みわたり、遠く比叡山や愛宕山の姿も冴え、夜空には月がくっきりと輝きます。

[2021/10/23~11/6]

露は霜へと変わり、風は冷たく、いちだんと秋が深まる頃。秋の特別拝観や秋祭りで京都の街はにぎわいを増します。

[2021/11/7~11/21]

暦の上では冬が始まり、火の温もりが恋しくなる頃。京都は至るところで紅葉が広がり、美しい緋色に染まります。

[2021/11/22~12/6]

街に落葉が舞い、北山に初雪が舞い始める時期。南座に顔見世のまねきが上がると、いよいよ京都の町は師走の様相に。

[2021/12/7~12/21]

京都盆地に比叡おろしが吹き、大根焚きの湯気が上がり、パタパタと煤払いの音が聞こえると、正月準備を始める頃です。

[2021/12/22~2022/1/4]

一陽来復とも称される冬至。新年がよい年となるよう願い、しめ縄や松を飾り、鏡餅を供え、歳神さまを迎える準備をします。

[2022/1/5~1/19]

寒の入りといわれ、京都の底冷えが身にしみる時期。初ゑびす、小正月と続いて、新年の華やぎも落ち着いてきます。

[2022/1/20~2/3]

二十四節気の締めくくり。一年の邪気を祓い、心新たに春を迎えるために、各地の寺社で節分行事が営まれます。

番外編

[〜番外編~]

祭礼や年中行事などの日をハレ(晴)、普段の日をケ(褻)とし、非日常と日常を使い分ける文化が京都の暮らしに息づいています。

[〜番外編~]

相性のいい旬の食材の組み合わせを出合いもんと言います。季節、食材、人と人、調和を尊ぶ京都らしい美意識がここに。