DELIGHT EYES
SDGsフレンドリーなアイテム
もの選びの新たな基準
日本でも多くの場面で聞くようになった「SDGs」。国連が定める持続可能な開発のための国際目標のこと。ものづくりの現場でもその視点が重視されてきています。DELIGHT EYES 第1回目のテーマは 「SDGsフレンドリー」。
ARCHIVES大丸心斎橋店本館8階にある「Master Recipe(マスターレシピ)」では、「ワールド・コンテンポラリー・クラフト」をコンセプトに、素材、産地にこだわったプロダクトを扱っています。今回ご紹介するのは「Master Recipe」で販売しているブランド、「WANOWA(ワノワ)」のSDGsフレンドリーなものづくり。日本の地域の魅力を「香り」というフィルターを通して発信する、キーパーソンの想いとは?
ハンドクリームやローションをつけるとふわっと広がる、爽やかな柚子や檜の香り。「WANOWA」のアイテムは「日本の農産物」と「香り」をテーマにしているのが特徴です。商品開発の過程では、ロス素材の有効活用、環境に優しいパッケージ、産地への利益還元モデルなど、SDGsに繋がるたくさんのアイデアが取り入れられています。日本の伝統を次の世代に残していきたい、産地に貢献したい……。そんな想いが伝わるプロダクトの開発ストーリーを聞くために、WANOWAを手がける株式会社キャライノベイト代表の清水篤さんにお話を伺いました。
清水さんが会社を立ち上げたのは2008年のこと。前職ではフレグランスメーカーに勤務し、商品の輸入やOEM開発などに携わっていました。順調にキャリアを重ねていましたが、ある日、会社を辞めて小さな倉庫で香りの会社を立ち上げることを決意します。
「前の会社では海外ブランドの国内卸の営業のために日本各地を回っていました。商品を通じて海外の文化を知れば知るほど、日本の魅力に改めて気づくようになる。その一方で、日本の産地が抱える過疎化や後継者不足などの問題にも目がいくようになりました。それで日本の文化やものづくりの素晴らしさを次世代に残すために、何ができるのかを考えるようになりました。また、大量生産・大量消費のものづくりでは、商品を大量に廃棄することもある。当時はまだSDGsという言葉はありませんでしたが、海外ではサステナブルの概念が浸透していました。ものづくりに対する考え方を改めて、“人と環境によいものづくり”をしていきたいと思ったんです」
その後、清水さんは石川県能美市で生産されている「国造ゆず」と出会うことに。能美市にある国造地区では、代々、庭先に柚子の木を植える習わしがありました。いまでも10月末になると、たわわに実った柚子の鮮やかな色合いと、爽やかな香りを楽しむことができます。この「国造ゆず」こそ、「WANOWA」のブランド設立のきっかけになった農産物です。
「柚子の産地といえば高知県や徳島県が有名ですが、石川県の能美市でも35年以上前から『国造ゆず』を生産していることを知りました。生産を始めた当時から無農薬、有機肥料で栽培している国産のオーガニック。柚子と味噌を合わせた郷土料理「柚子味噌」も地元では定番のメニューです。ところが後継者が不足していて、最盛期には30軒以上あった柚子農家も今では6軒ほど。柚子の栽培には実はかなり長い年月が必要で、『桃栗三年柿八年、柚子の大馬鹿18年』という言葉もあるんですよ。せっかく手間ひまをかけて質の高い柚子を作ってきた文化があるので、“香り”というフィルターを通して、より多くの人に知ってもらいたいというのが『WANOWA』をはじめた理由です」
「国造ゆず」の品種には、一般的な大きさの「木頭(きとう)」と、小ぶりな「多田錦(ただにしき)」の2種類があって、「多田錦」は香り高く、種がないのが特徴です。主に料亭で出される料理の香りづけに使われていますが、清水さんが着目したのは、普段は廃棄されてしまう「多田錦」の“果皮”の部分。
「料理では主に果汁が使われますが、化粧品や香りのアイテムの原料になる精油は、皮から採ることができるんです。産地に訪れたのがちょうど収穫の時期で、皮が捨てられると聞いてすぐにやってみようと決めました。製品を作るノウハウはありましたし、一緒に商品を販売してくれそうなお店もイメージできたので、まずは作ってみることが大切だなと。次の収穫を待つと1年後になってしまいますから」
商品を開発するにあたって、清水さんは A4の紙いっぱいにマインドマップを描いていました。そこには「素材ロスの活用」とともに、「動物や植物の多様性」「農家の収入安定サポート」「消費者が地域を知るイベント」など、地域の産業を守っていくためのキーワードが散りばめられています。
「柚子だけではなく使用する成分にもこだわっていて、できる限り天然由来の成分を使用しています。国造ゆずのシリーズだと、ハンドクリーム、ミルクローション、フェイスパックは天然由来成分98%以上の割合です。パッケージにもFSC認証紙という環境保全に貢献できる素材を選びました。これらは動植物の多様性につながりますよね。ハンドクリームのチューブにアルミを採用しているのも、できるだけプラスチックの使用を控えたいという想いからです」
「国造ゆず」、「加子母(かしも)ひのき」、「和束茶(わづかちゃ)」。WANOWAの商品は産地と農産物の名前が商品名になっていて、売りあげの2%が生産者に還元される仕組みになっています。
「農産物をブランド化することで、その地域に興味を持ってもらいたいんですよね。商品のパッケージに日本地図を描いて、産地の場所がわかるデザインにしているのもそのためです。WANOWAはちょうど国連でSDGsが採択された2015年に生まれましたが、3年半後の2019年には還元した売りあげで柚子の苗木40本を植樹することができました。国造地区では約30年ぶりの植樹となり、農家のみなさんにもとても喜んでいただけたので、開発当初を思い出し、自分自身もスタッフも感慨深いものがありました」
2019年には関係者や商品を販売しているショップ担当者を招いて、「国造ゆず」の産地ツアーも企画。柚子の収穫体験や地域の文化に焦点をあてたツアーは高く評価され、地元メディアでも紹介されました。
「生産者、工場、ショップ、消費者が一緒になってコミュニティを作ることで、利益を生み出すブランドを目指していきたいんです。ツアーはプロジェクトに関わる人に産地の魅力を直接感じてもらえますし、ユーザーの感想を産地の人々に届ける機会でもあります。地域の人々と交流しながら地産地消の料理を楽しみ、町に伝わる文化を知ると、その地域を応援したくなりますよね。ツアーの1回目は商品を一緒に販売してくださっているショップの方々を中心に開催しましたが、今後は一般の方に向けたツアーも企画していきたいです」
キャライノベイトのWEBサイトでは、産地の魅力や商品の背景にあるストーリーも発信しています。ひとつひとつの記事を読んでいくと、清水さんやスタッフのみなさんが地域と生産者のことを想いながら、丁寧にプロダクトを作ってきた時間が伝わってきます。爽やかな柚子の香りを嗅ぐと、プロジェクトに関わる人々の笑顔が見えてくるのも、「WANOWA」の魅力なのかもしれません。
「WANOWA」では「国造ゆず」のほかに、岐阜県の「加子母(かしも)ひのき」、京都の「和束茶(わづかちゃ)」のシリーズを販売しています。どちらも、ある製品の製造過程で廃棄されていたものを原料にして、香りの商材を作っています。
「加子母ひのきは岐阜県で採れる最高級の木材で、伊勢神宮の御用材としても使われています。『WANOWA』の原料に使っているのは、森林が成長する過程で間引かれる間伐剤の枝葉。木を伐採するときには、丸太の部分を運びやすくするために枝葉を取り除いて山に捨てるんです。それが土石流の原因になるとも言われていて。そこで地元の方たちと協力して、枝葉を集めて精油を採ることにしました。木部から採った精油はひのき風呂のような香りがしますが、枝葉を使うと緑を感じるフレッシュな香りになるんです。精油を採るために蒸留する工程では、地元の森林組合が所有している蒸留装置のオフシーズンを有効活用することができました。いまある機械の稼働率を上げることも重要だと思うんですよね」
そして、「WANOWA」の最新アイテムとして登場したのが、京都の和束茶(わづかちゃ)を使ったハンドクリーム。京都のお茶は宇治茶と分類されることが多いのですが、その内訳は和束茶という品種が約半数を占めています。その和束茶をブランディングして広めていくのが狙いです。
「『和束茶』のシリーズでは、京都の山奥にある、400年前から続いている在来種の茶畑に協力してもらっています。茶葉の収穫では新茶を摘む前に“刈り込み”をするんですが、その時に捨てられる茶葉を使用。香りを最大限出せるように製造方法にもこだわりました」
こうして実際に産地に訪れて、農業や林業の課題と向き合いながら、新たなシリーズが生み出されていきます。WANOWAのパッケージに描かれる日本地図には、日本の地域という点と点を、縁で結んでいきたいという思いも込められています。マップのポイント=世界に誇れる日本の文化。そう考えると、いったい次はどこの産地の香りが登場するのか、そんな期待も膨らんでいきます。
“香り”というフィルターを通して、日本の産地の文化を伝えていく。その姿勢の背景には、日本の素晴らしい魅力を次の世代に残していきたいという想いが込められていました。SDGsの「GOAL11:住み続けられるまちづくりを」達成するためには、清水さんが思い描いているような、「コミュニティを作ることで、利益を生み出す」仕組みが重要になってきます。これからの時代の買い物の指針のひとつとして、コミュニティに参加するという意識を加えてみてはいかがでしょうか。
WANOWAの商品は「GOAL8:働きがいも経済成長も」、「GOAL12:つくる責任 つかう責任」、「GOAL15:陸の豊かさも守ろう」など、複数のSDGsのゴール目標達成に貢献しています。商品の香りとともに、いったいどのゴールに貢献しているのかを考えてみると、商品への愛着がより一層深まっていくかもしれません。大丸心斎橋店本館8階の「Master Recipe」で、日本の文化を感じられる香りをぜひ試してみてください。
※この記事の内容は2021年3月30日に公開された時点のものです。
写真/兼下昌典(清水氏ポートレート、商品イメージカット)、エレファント・タカ(マスターレシピ店内カット) 取材・文/宮原沙紀 WEBデザイン/唯木友裕(Thaichi) 制作・編集/河邊里奈(EDIT LIFE)、松尾仁(EDIT LIFE) 写真協力/キャライノベイト
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